目次
1.原状回復の重要性について
2.賃貸住宅の現状回復についてのルール
3.国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と改正民法
4.「特約」の重要性について
5.「特約」の内容について注意
6.まとめ
退去が発生すると、「現状回復」が発生します。 実は、この「現状回復」を正しく理解していないと、オーナー様が損をする事になります。 原状回復を正しく理解し、トラブルを避け、コストを抑えることは、物件の収益を最大化させるには必要不可欠の要素 になります。 そこで今回は、オーナー様が物件の収益を最大化させるための原状回復の考え方について解説していきます。
1.現状回復の重要性について
現状回復は、次の入居者を早期に見つけ、空室や家賃の下落を発生させないための重要な工事になります。
この工事が適切に行われないと、以下のような弊害が発生します。
・入居希望者が減り、空室が埋まりにくくなる。
・適正家賃よりも家賃を下げなければならなくなる。
・リノベーションや設備の入換時期が早くなる。
上記の弊害が発生すると、家賃収入は悪化し、収益の最大化の実現は叶わなくなります。
上記弊害を避け、 収益を最大化させるためには、適切な現状回復が必要不可欠 なのです。
2.賃貸住宅の現状回復についてのルール
賃貸住宅の現状回復では、以下のようなトラブルが発生することがあります。
・原状回復費の精算の際、敷金を超える額を入居者に請求したが支払われない。
・壁紙交換費用を、貸主と借主どちらが負担するかでトラブルになった。
・原状回復費が高すぎるとして、入居者から支払いを拒まれた。
これらのトラブルを避けるために、 国土交通省よりガイドラインが策定されています。 また、 民法も改正 されています。これらを元に正しい現状回復を理解していきましょう。
3.国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と改正民法
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復について以下のとおりに定められています。
『原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』
出典:国土交通省 – 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
この「善管注意義務」とは、善良な管理者として一般的に払うべきとされる注意義務をいいます。
つまり、入居者が負担すべき原状回復費用とは、入居者が故意又は不注意で物件に損失を与えた場合ということになります。
したがって、 建物や設備の経年劣化や、入居者が通常の使用方法に従って使用しても生じる損耗については、入居者ではなくオーナーが負担 することとなります。
ただし、ガイドラインはあくまでも現状回復に関する基本的な考え方を表したものであって、法的拘束力を持つわけではありません。
一方、2020年4月には民法が改正され原状回復についてのルールが明文化されました。
改正民法第621条は、「賃借人は賃借物を受け取ったのちに生じた損傷について原状回復義務を負うが、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については原状回復義務を負わない」旨を定めています。
内容はガイドラインのものとさほど変わりはありませんが、通常の使用によって生じた通常損耗や経年劣化は原状回復の対象外とする判例実務上の考え方が明文として定められることになりました。
4.「特約」の重要性について
上記のように、ガイドラインや改正民法は 借主が有利 になるように設定されています。
退去時に発生するハウスクリーニングや水まわり設備の消毒作業等の最低限の原状回復費用は借主がどんなに綺麗に使用していても基本必須ですが、ガイドラインと民法に則れば、これらの費用は「通常の使用による損耗」の範囲なので、オーナー様が負担することとなります 。
入居者がよっぽど何かを壊したり汚したりした場合以外、オーナー様の負担になるのです。 これでは、 オーナー様としては退去が発生する度に必要以上に大きな支出を迫られることとなり、収益を悪化 させてしまいます。
そこで対策として活用していきたいのが 「特約」 になります。
ガイドラインはもちろん、原状回復についての改正民法の規定は任意規定のため、内容の異なる「特約」も有効 となります。
ここでぜひ活用いただきたいのが、ハウスクリーニングなどの通常損耗による原状回復費用の一部を入居者に負担してもらえる 「通常損耗補修特約」 です。
賃貸契約を結ぶ際に、特約を賃貸契約書に記載し入居者の合意を得ていれば、特約に明記した通常消耗による原状回復費用は、入居者に負担してもらえます。
もちろん、口頭でも可能ですが退去時に揉めることを避けるためにも確実に契約書に記載した方が得策でしょう。
この「通常損耗補修特約」のポイントは、下記の通り入居者に費用負担してもらう原状回復の種類・金額を、具体的に契約書に明記することです。
・ハウスクリーニング費用…3万円
・トイレ、風呂場、台所の殺菌消毒…1万5千円
「通常損耗による原状回復費用も入居者が負担すること」といったざっくりした記載(特に入居者の負担金額が明確にわからない記載)では、万が一費用負担でトラブルになった時、特約の有効性が認められない可能性が大きいので注意しましょう。
5.「特約」の内容に注意
上記以外の特約も設定可能ですが、どんな特約も有効になるわけではありません。
ガイドラインによると、特約を設けるには以下の条件を満たさなければなりません。
・特約に必要性・合理性があり、暴利的でないなどの客観性があること
・特約により、通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて、入居者の認識があること
・特約による義務を負担することについて、入居者の意思表示があること
特約を有効にするには、 特約が一方的に入居者に不利な内容ではなく、また入居者に対し十分な説明を事前に行い、入居者との間の認識の違いをなくす ことが必須となります。
6.まとめ
今回は、「現状回復」の考え方と、特約の重要性について解説しました。
・現状回復工を適切に行わなければ、家賃の下落や空室の増加等の弊害が出る
・ガイドラインと改正民法での現状回復の考え方は入居者が有利な内容になっており、そのままの条件だとオーナーサイドは支出が増え収益の悪化を招く
・特約を有効に利用することにより、支出を抑え収益を最大化させることが可能
以上の点を踏まえ、現状回復に臨んでみてはいかがでしょうか。
富永 和洋|株式会社和紗 代表取締役
所有資格:管理業務主任者、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
上尾市を中心に埼玉で不動産管理事業を行っています。仲介業を行っていないからこそ建物管理の本質であるビルマネジメントにも力を入れており、本当の意味でオーナー様と同じ目線に立ち収益の最大化を実現させます。
富永 和洋|株式会社和紗 代表取締役
所有資格:管理業務主任者、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
上尾市で不動産管理事業を行っています。仲介業を行っていないからこそ建物管理の本質であるビルマネジメントにも力を入れており、本当の意味でオーナー様と同じ目線に立ち収益の最大化を実現させます。