近年、不動産を所有したり、投資対象として運用し節税を目指すスキームに注目が集まっています。
しかし、どのような仕組みで節税できるのかよく分からないという方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、不動産投資で節税できる税金の種類や、節税を考える上で注意したいポイントなどをご紹介します。将来的な資産形成のために不動産投資やマンション経営を検討している方は、役に立つ知識を得られるでしょう。
1.不動産投資で節税対策が向いている人の条件
まず大前提として、不動産投資での節税に向いている人は給与所得が高い人です。
なぜなら、不動産投資による節税は、所得税率・住民税率と譲渡税率の差異を利用して行うからです。
この税率差が大きければ大きいほど節税効果は高まりますので、給与所得金額が高ければ高いほど不動産投資による節税に向いていることになります。
反対に、給与所得が高くない人は節税効果を狙い不動産を購入することはあまり意味がありません。
もし購入する場合は、節税効果のある物件よりも収益性の高い不動産を購入しましょう。
2.不動産投資で軽減できる税金は何があるのか?
不動産投資を行うことで、納税額を軽減できる可能性がある項目は以下の通りです。
所得税
所得税は、1年間の全ての収入金額から、必要経費や所得控除額を差し引いた金額(=所得金額)に対してかかる税金です。
住民税
道府県民税(東京都の場合は都民税)と区市町村民税を総称して「住民税」と呼び、所得税と同様に所得に応じた金額を毎年納めます。
贈与税
贈与税は、財産を無料で譲り受けたときに課される税金で、贈与される財産の金額が大きいほど、税率が高くなります。
相続税
故人から財産を引き継いだときに発生する税金です。残された遺産に加え、相続開始(被相続人の死亡)前3年以内に贈与された財産についても、相続税がかかります。
法人税
企業活動によって得られた法人の所得に対して課される税金です。不動産投資を行う際に、個人ではなく法人として投資した場合は、通年の所得に対して、所得税ではなく法人税が発生します。
3.不動産投資で節税できる仕組み
不動産投資が税金対策につながる理由はいくつか存在します。なかでも、所得税・住民税については、「減価償却」「損益通算」を行うことで課税対象の所得額を少なく申告できるため、毎年の納税額を抑える効果を期待できます。
また、将来的に財産の贈与や相続が発生した際に、現金よりも不動産のほうが納税額を抑えられるというメリットも存在します。不動産投資によって節税できる仕組みについて、詳しくチェックしていきましょう。
減価償却が使える
先ほど説明したように、所得税や住民税の納税額については、収入金額から必要経費を差し引いた金額をもとに算出されます。不動産投資のための物件購入費用は必要経費として扱われますが、経年劣化を伴う建物や設備などに対する取得費用は、耐用年数(利用に耐えうる年数)分に分割して経費に算入できます。このような仕組みを「減価償却」といいます。
減価償却により、実際には購入時にまとまった金額で支払った購入費用を、次年度以降に少しずつ経費に計上していくことが可能となります。これにより、不動産購入時から耐用年数が経過するまでの間、所得を少なく申告できるため、所得税と住民税を長年にわたって軽減できるのがポイントです。
不動産投資の必要経費には、購入費用の減価償却に加え、主に以下のような項目が挙げられます。
・固定資産税
・損害保険料
・修繕費
損益通算できる
不動産投資によって赤字が生じた場合、給与所得をはじめとしたそのほかの収入から損失分を差し引いた金額をもとに所得税額や住民税額が算出されます。これを「損益通算」といい、課税対象から控除される金額は、以下の式で求められます。
・不動産投資以外の収入から差し引く赤字額 = 家賃収入 – 必要経費
上述の減価償却と併せて損益通算を行えば、不動産投資の納税額をさらに抑えることが可能です。たとえば、1年間の家賃収入が500万円、購入費用の減価償却費が700万円、そのほかの必要経費が100万円であれば、500万円-700万円-100万円=-300万円となり、赤字額300万円分が損益通算されることになります。
年収が1500万円の人であれば、損益通算を行うことで、1500万円-300万円=1200万円として所得額を申告できるため、所得税と住民税の軽減に役立つのです。
不動産評価額を下げられる
不動産投資により節税できるのは、毎年の所得税や住民税だけにとどまりません。財産を不動産の形で所有していることで、贈与や相続を行う際の税金の負担を抑えられる可能性があります。なぜなら、贈与税や相続税の算出に用いる不動産の評価額は、同じ価値の現金よりも低いことがほとんどだからです。
不動産の贈与税や相続税を算出する際は、「相続税評価額」に所定の税率をかけ合わせます。相続税評価額は、時価(実際に売買される価格)の80%程度となっていることが一般的です。
たとえば5000万円分の財産に関して、全て現金で所有の場合の課税対象額は5000万円であるのに対して、売買価格5000万円の不動産を所有の場合、課税対象額は4000万円となるため、相続税が抑えられることが分かります。
さらに、贈与や相続の対象となる不動産が賃貸用物件である場合、土地と建物の評価額が軽減されます。賃貸用物件の相続税評価額は、賃貸に出している分だけもとの不動産の価格から差し引かれて計算されるためです。
賃貸マンションやアパートが建っている「土地」は貸家建付地として評価額が決められ、次の式で計算されます。
貸家建付地の相続税評価額
= 路線価 × 土地面積 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
「路線価」とは、道路に面する宅地の1㎡あたりの価格を意味しており、国税庁が毎年公表しています。「借地権割合」は地域ごとに決められており、30%から90%までの値を取る一方で、「借家権割合」については、全国一律で30%となっています。「賃貸割合」とは、建物全体の床面積のうち賃貸部分の割合を指します。
たとえば路線価が50万円で80㎡の土地の場合、通常の土地の評価額は以下のような算出方法になります。
50×80=400万円
しかし、路線価、土地面積が同条件で借地権割合80%、賃貸割合100%の貸家建付地の場合、以下のような計算になります。
50×80×(1-80%×30%×100%)=304万円
このように、貸家建付地のほうが、相続時の評価額が小さくなるのです。また、賃貸用物件の「建物」の相続税評価額については、以下の式で計算されます。
貸家の建物の相続税評価額
= 固定資産税評価額(新築建築費用の50~60%) × (1 – 借家権割合)
以上のことから、贈与・相続に際しては、現金よりも賃貸用物件として資産を持っていたほうが節税につながるケースが多いことが分かります。
法人化で節税も
通年の家賃収入にかかる税金は、所得税として支払うよりも法人税として支払うほうが安くなることがあります。先ほど触れたように、所得税は累進課税であることから、課税所得が増えると税率も大きくなってしまいますが、法人税は上限が23.2%と決められているためです。
具体的には、所得税の税率は課税所得が900万円を超えると33%となってしまうため、通年の所得が900万円を超える場合、法人として不動産投資を行うのがおすすめです。
4.節税目的で不動産投資を始める場合の3つの注意点
1. 長期間の節税効果は見込みづらい
物件購入時の初期費用がかかる初めの年は、不動産投資をすることで多くのケースで一定の節税効果が得られます。
2年目以降は、同一の投資物件に対して初期費用ほどの経費は一般的にはかからず、節税効果は1年目よりも弱まります。
2. 損益通算上の注意点には一定の制限がある
借入金利息については損益通算に一定の制限があります。具体的には土地の取得のための借入金に係る利息は損益通算額計算上、除外して計算しなければなりません。
【関連リンク】
確定申告で不動産投資ローンの金利(借入金利子)は経費にできる?
3. 青色申告特別控除が使えない
青色申告をした場合、青色申告特別控除として10万円もしくは最大65万円を控除することができますが、青色申告特別控除はこの控除額計上前に既に不動産所得がマイナスの場合には使えないということです。
また控除上限は控除額計上前の所得金額となります。例えば青色申告特別控除前の所得が1万円で10万円の控除が使えたとするとマイナス9万円になりますが、この9万円は切り捨てられることになります。
5.まとめ
不動産投資は、損失をしっかりとマネジメントし、トータルでは利益を出すようにプランを立てましょう。
損益通算による節税も損失マネジメントという意味では大事な論点ですが、不動産投資である以上「税引き後所得の最大化」が最も大事です。損益通算狙いの過度な経費計上は税引き後所得を減少させるだけでなく、税務調査でのリスクを高めることになりますのでご注意ください。
富永 和洋|株式会社和紗 代表取締役
所有資格:管理業務主任者、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
上尾市を中心に埼玉で不動産管理事業を行っています。仲介業を行っていないからこそ建物管理の本質であるビルマネジメントにも力を入れており、本当の意味でオーナー様と同じ目線に立ち収益の最大化を実現させます。
富永 和洋|株式会社和紗 代表取締役
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